2022年8月13日、北海道・羅臼岳。山頂直下の巨岩帯で、低血糖で動けなくなった登山者に遭遇しました。
すぐに救助要請を。そう思ってスマホを見ると、その場ではどのキャリアも圏外。電波は、山頂側まで登らないと届かない場所でした。
結局、山頂にいる登山者へ伝言を頼む「伝言ゲーム」で救助要請が繋がりました。あの日、命を繋いだのは自分の電波ではなく、他人の電波だったんです。
この経験があってから、山の通信を「装備」として本気で設計するようになりました。たどり着いた結論はシンプル。1つのキャリアに全部を任せない。これだけです。
この記事では、百名山100座を歩いて感じた電波の傾向と、20代から通信キャリアを追いかけてきた知識を全部使って、月2,000円台で作る「山で死なないための通信設計」を公開します。
この記事でわかること
- 登山で電波が繋がりやすいキャリアの傾向(百名山100座を歩いた体感)
- 大手3キャリアの電波を月2,000円台で「全部持ち」する方程式
- iPhoneショートカットで昼だけ回線を自動切替する設定手順(画像付き)
- 衛星通信「当面無料」の裏側と、iPhone緊急SOSの正しい位置づけ
- 全キャリア圏外で人が倒れていたら何ができるか(羅臼岳の実話)
所要時間:約10分
山で電波が命綱になった日|羅臼岳の救助要請
どのキャリアも圏外。繋いだのは他人の電波だった
まず、冒頭の話をもう少しだけ詳しく書かせてください。この記事の出発点だからです。
2022年8月、羅臼岳の羅臼平から山頂へ向かう巨岩帯。そこで低血糖らしき症状で動けなくなった登山者に遭遇しました。幸い、同行メンバーに医療関係者がいて応急処置ができた。エマージェンシーシートを掛けて保温もできた。でも、救助要請だけがどうにもならない。その場では、どのキャリアの電波も通じなかったからです。
電波が届くのは山頂側。だから、山頂にいる登山者に伝言を頼みました。人から人へ、声で繋ぐ救助要請。その方は意識が戻ったあと羅臼平まで自力で下山し、ヘリで搬送されて無事でした。
正直に書きます。あの日、私のスマホは何の役にも立ちませんでした。どんなに複数のキャリアを持っていても、圏外の場所では全部圏外。それが山の電波の現実です。だからこそ「電波が繋がる確率をどう上げるか」を、装備と同じ真剣さで考えるようになりました。
※これは2022年当時の話です。通信エリアは年々改善されているので、現在の羅臼岳では状況が変わっている可能性があります。この日の山行の詳細は羅臼岳の登山日記に書いています。
あの日から考えている「多層防御」
羅臼岳の経験を整理すると、山の通信は1つの手段に頼るのではなく、層で備えるものだと分かります。
- 複数キャリアを持つ:繋がる確率を上げる装備。ただし100%にはならない
- 全滅なら場所を変える:山頂側・稜線側・開けた場所へ。電波は数十メートルで変わる
- 他人の電波を借りる:羅臼岳の伝言ゲームがまさにこれ。今は仕組み化されたものもある(記事の最後で紹介します)
- 衛星通信:2022年当時は存在しなかった第4の層。あの日iPhoneの緊急SOSがあれば、伝言ゲームは要らなかった
この記事はこの4層を、上から順番に「安く・確実に」揃えていく話です。
なぜ電波は「山頂側」にだけあったのか
ところで、あの日なぜ電波は山頂側にだけあったんでしょうか。仕組みを知っておくと、圏外で動くときの判断が変わります。
携帯の基地局アンテナは、山ではなく人の住む街や道路の方を向いて建っています。山の中腹や谷筋は、地形と樹林に遮られて電波の死角になりやすい。一方で山頂や稜線は、遠く離れた麓の街の基地局と直接見通せるので、意外なほど電波が入ることがあります。
つまり「圏外になったら、高くて開けた場所へ」は根性論ではなく、電波の物理に沿った行動なんです。逆に言えば、樹林帯の登山道がずっと圏外なのも当たり前の話。圏外は故障でも異常でもなく、山ではデフォルトの状態だと思っておくくらいでちょうどいいですね。
登山で電波が繋がりやすいキャリアはどこか
百名山100座を歩いた体感
2019年頃から2025年9月の完登まで、百名山100座をすべて自分の足で歩きました。個別の山ごとの実測データは今後の登山で追記していくつもりですが、まず全体の傾向を正直に書きます。
| キャリア | 山での体感(百名山100座・傾向) |
|---|---|
| ドコモ系 | 昔は圧倒的に強かった。最近は他社との差が縮まってきた印象。それでも登山では依然として無難な選択 |
| ソフトバンク系 | ここ数年で明らかに改善を体感。「山のソフトバンク」は昔のイメージより頑張っている |
| au系 | 全体では突出して強いわけではない。ただ、たまに「ピンポイントの当たり」がある |
auの「当たり」の実例をひとつ。南アルプス深部のある登山口駐車場では、auだけが繋がりました。ドコモもソフトバンクも沈黙する場所で、auのアンテナだけが立つ。こういう場所が山には点在しています。
この体感には、背景があります。ドコモは日本百名山を対象に登山道のエリアマップを公開し、夏山シーズンには登山道へ期間限定の基地局まで設置しています。「山にどれだけ本気か」の差が、昔からドコモが山で無難とされてきた理由です。ただし「ドコモなら必ず繋がる」ではないのは、羅臼岳で書いたとおり。整備は確率を上げる話であって、保証ではありません。
山小屋の案内板が教えてくれること
最近の山小屋では、auがWi-Fiを提供している小屋が増えました。そして小屋によっては、こんな案内板が出ています。
「ドコモはこっち、ソフトバンクはこっち」
小屋の周りを数メートル歩くだけで、繋がるキャリアが変わるということです。これが山の電波のリアル。「どのキャリアが最強か」という問いには、実はあまり意味がありません。場所によって勝者が変わる以上、複数持つのが唯一の正解なんです。
楽天モバイルを解約した正直な理由
私は以前、楽天モバイルも契約していました。4キャリア全部持ちです。でも解約しました。
期待していたのは「他の3キャリアが全滅しても楽天だけ生きている」場面。ところが実際に多かったのは逆で、山では楽天だけが死んでいる場面ばかり。電車での移動中も途中で切れることがあり、自宅は固定回線があるので使い道が残りませんでした。
誤解のないように書くと、楽天モバイルにも役割はあります。データ無制限を安く使いたい人には今も有力な選択肢(この記事の後半で触れます)。ただ、「山での繋がりやすさ」を最優先に選ぶなら、私の体感では本命ではありませんでした。
大手キャリア3回線持ちは現実的か|料金の壁
「複数キャリアが正解なら、大手3社と契約すればいいのでは?」。理屈はそのとおり。でも、財布が持ちません。
大手キャリア無制限プランの月額(2026年7月時点・割引後の概算)
| プラン | 月額(税込) |
|---|---|
| ドコモ eximo | 約5,148円 |
| au 使い放題MAX | 約4,928円 |
| ソフトバンク メリハリ無制限+ | 約5,478円(2026年7月改定後・従来4,928円から+550円) |
| 楽天モバイル 最強プラン(無制限) | 3,278円 |
※料金・プラン名は改定されるため、この囲みの情報だけ定期的に更新します。
大手3社を無制限で持つと、割引を効かせても月1.5万円、年間で18万円ほど。登山のためだけに払う金額ではないですよね。
それに、通信に18万円かけるくらいなら、その一部をココヘリや山岳保険に回すほうが、よほど命を守る配分だと考えています。電波は「繋がる確率を上げる」装備、ココヘリは「見つけてもらう」装備。両方あって初めて多層防御が成立します。
では、どうやって安く3キャリアを持つのか。次が本題です。
安くて安全な通信の方程式|メイン1本+維持費ほぼ0のサブ
方程式はこうです。
しっかり使えるメイン回線を1本+維持費がほぼ0円のサブ回線で残りのキャリアを穴埋め
今のスマホは、eSIMを使えば1台で複数回線を持てます。メインに品質を求め、サブには「圏外のときの保険」だけを求める。この割り切りで、大手3社の電波を月2,000円台で全部持てる時代になりました。
格安SIMの比較表(2026年7月時点)
主要格安SIM・オンライン専用プラン(2026年7月時点・音声・税込)
| サービス | 回線 | 月額 | 内容・注意点 |
|---|---|---|---|
| 日本通信SIM 合理的みんなのプラン | ドコモ | 1,390円 | 20GB+通話70分。私のメイン回線。平日昼12〜13時は速度が落ちる |
| LINEMO ベストプラン | ソフトバンク | 990円(3GB)〜 | 段階制。LINEはギガ消費なし。ソフトバンク本体系なので昼も速い |
| povo2.0 | au | 基本料0円+トッピング | データ使い放題24時間330円・6時間250円など。180日以内に1回は購入が必要 |
| mineo マイピタ | D/A/S選択 | 1,298円(3GB)〜 | 3キャリアの回線から選べる。私が以前使っていた |
| mineo マイそく | D/A/S選択 | 990円(1.5Mbps使い放題) | 低速定額。ただし平日12〜13時は32kbps=昼は実質使えない |
| mineo パケット放題(最大3Mbps・オプション) | D/A/S選択 | マイピタ15GB以上は無料・3GB/7GBは+385円 | 3Mbps使い放題。昼も最大200kbpsでマイそくより粘る |
※料金・プラン名・キャンペーンは変わります。この囲みは「2026年7月時点の最適解」として、改定があればここだけ更新します。
表を眺めると気づくと思います。povoの基本料0円が、この方程式の心臓部です。契約しておくだけならタダ(180日に1回の課金だけ必要)。つまりauの電波を「保険」として、ほぼ無料で持てる。使うのは山に行く日だけ、24時間使い放題330円をトッピングすればいい。
メイン回線の選び方|ドコモ系「階段」の考え方
サブが決まれば(au枠=povo、ソフトバンク枠=LINEMO)、残る悩みはメインのドコモ系だけ。ここは「速度への不満」に応じて登る階段として考えると迷いません。
ドコモ系メイン回線の階段(2026年7月時点)
| 何を優先するか | 選ぶ回線 | 月額 | 昼の速度 | 衛星 |
|---|---|---|---|---|
| とにかく最安(昼はLINEMOへ逃げる) | 日本通信SIM 20GB | 1,390円 | 低下する | — |
| 低速でいいから定額使い放題 | mineo パケット放題(3Mbps) | 1,700円台〜 | 最大200kbps | — |
| 昼も速い「本体品質」が欲しい | ahamo 30GB | 2,970円 | 約20Mbps・失速なし | 当面無料 |
※ahamo大盛り(+1,980円で110GB・月4,950円)もあり。料金改定時はこの囲みだけ更新します。
ここで1つ、格安SIM選びでハマりやすい落とし穴を。日本通信もmineoも、ドコモから回線を借りているMVNOという点では同じ仲間です。だから「日本通信の昼が遅いからmineoに乗り換えよう」は横移動で、昼の遅さは根本的には解決しません。mineoのパケット放題は「低速でいいから定額」という別の思想の選択肢として見るのが正確です。
昼の遅さを本当に消せるのは、ドコモ本体品質のahamoだけ。そしてahamoには後述する隠れ特典があります。ドコモの衛星メッセージ機能が申込不要・当面無料で付いてくるんです。速度の不満と衛星の備え、同じ一手で両方解決する。階段の最上段にはそういう意味があります。
私の実運用を全公開|月2,000円台で3キャリアの安心
ここからは手の内を全部さらします。私が実際に使っている構成がこれです。
| 枠 | 契約 | 月額(税込) | 役割 |
|---|---|---|---|
| ドコモ枠 | 日本通信SIM(20GB+通話70分) | 1,390円 | メイン。普段使いのほぼ全部 |
| ソフトバンク枠 | LINEMO(3GB〜) | 990円〜 | 平日昼の時間帯用+山での電波保険 |
| au枠 | povo2.0 | 0円(使う時だけトッピング) | 山に行く日だけ課金する電波保険 |
固定でかかるのは日本通信1,390円+LINEMO990円の合計2,380円。povoは登山や遠征の日だけ、必要に応じて課金します。月2,000円台で、大手3キャリアの電波を全部持ち歩ける。大手1社の無制限プラン1本分の半額以下です。
なぜ2,000円台の出費を受け入れているのか。理由は羅臼岳に戻ります。山でどこか1社でも繋がれば、自分の位置を家族に送れる。それだけで、万一のときに発見される確率が変わるからです(このあと詳しく書きます)。
年間コストで比べると差は歴然
月額だとピンと来ない方のために、年間で並べてみます。povoは月2回登山する想定で、24時間使い放題330円を年24回購入したとして計算しました。
| 構成 | 年間コスト(概算) | 持てる電波 |
|---|---|---|
| 私の構成(日本通信+LINEMO+povo) | 約36,480円 | 3キャリア |
| 大手無制限プラン1本(例:eximo) | 約61,776円 | 1キャリア |
| 大手無制限プラン3本持ち | 約180,000円 | 3キャリア |
大手1本より2万5千円も安いのに、電波は3倍。そして3本持ちとの差額は年間14万円以上です。この差額があれば、ココヘリも山岳保険も払ってなお、遠征の交通費が残ります。通信の設計は、安全予算全体の設計でもあるわけです。
LINEMOは「昼の遅さ」を消す保険でもある
メインの日本通信SIMは最安クラスで優秀ですが、MVNOの宿命として平日の昼12〜13時だけ速度が落ちます。この1時間の穴を埋めるのがLINEMO。ソフトバンク本体系なので、昼休みでも普通に速い。山ではソフトバンクの電波保険、平地では昼の速度保険。1本で2役です。
ちなみにLINEMOはLINEのトークや通話がギガ消費なしなので、家族への「無事に下山したよ」連絡とも相性がいいですね。
iPhoneショートカットで昼だけ回線を自動切替する
「昼はLINEMO、昼が明けたら日本通信」。この切替、毎日手でやるのは正直面倒です。だから私はiPhoneに全部任せています。ショートカットアプリのオートメーション機能で、時刻をトリガーに回線を自動で切り替える。設定は2本だけ。


設定手順はこのとおりです。
- ショートカットアプリを開き、「オートメーション」タブ→右上の「+」
- トリガーに「時刻」を選び、「平日」「11:58」に設定
- アクションに「デフォルトデータ回線を設定」を追加し、切替先に「LINEMO」を指定
- 「すぐに実行」を選び、「実行時に通知」をオフ(確認なしの完全自動になる)
- 同じ要領で2本目を作成:トリガー「平日」「13:02」→アクション「デフォルト回線を日本通信SIMに設定」
これで平日の昼休みは何も考えなくても速い回線に切り替わり、13時を過ぎたら最安のメインに戻ります。一度設定すれば、あとは存在を忘れるレベル。デュアルSIM運用の面倒くささは、ほぼこれで消えます。
通信は電池がないと成立しない
最後にひとつだけ。どれだけ回線を揃えても、スマホの電池が切れたら全部終わりです。地図アプリを動かしながら圏外地帯を歩くと、電波を探し続けるスマホは想像以上に電池を食います。モバイルバッテリーは「通信を継続するための電源」として、回線とセットで考えてください。
車中泊を挟む遠征なら、ポータブル電源という選択肢もあります。私の実体験はJackery 1000 Plusを遠征で2年使ったレビューに書きました。
衛星通信の最新事情と限界|「当面無料」の裏を読む
2026年の今、山の通信を語るなら衛星は避けて通れません。圏外でも空さえ見えればメッセージが送れる。羅臼岳の伝言ゲームを知っている身からすると、まさに革命です。
ただ、私は20代から通信キャリアの株を追いかけてきた人間なので、こういう癖があります。「無料」「オプションを付ければ無料」には、8割がた裏がある。飛びつく前に、その裏を見ておきましょう。
キャリア衛星「無料」の正体
キャリア衛星メッセージの料金(2026年7月時点)
| キャリア | 本体プラン | 格安・オンライン専用プラン |
|---|---|---|
| ドコモ | 当面無料・申込不要 | ahamo・irumo含め全プラン当面無料 |
| au | 当面無料 | povo2.0は有料オプション(au Starlink Direct専用プラン+)が必要 |
| ソフトバンク | 本体・ワイモバイル シンプルは無料 | LINEMOは2026年6月末で無料終了→月1,650円 |
※提供条件は変わりやすいため、この囲みだけ定期更新します。対象機種の条件もあります。
見えてきましたか。「無料」の正体は、高い本体プランを契約している客への特典なんです。povoやLINEMOで安く組んだ人は、有料オプションを付けないと衛星が使えない。LINEMOなら月1,650円、年間19,800円。安く組んだ意味が半分消えます。
つまり、私のような「日本通信+povo+LINEMO」の最安構成では、キャリア衛星は実質無料では使えません。唯一の例外がドコモで、ahamoでも当面無料。先ほどの「階段」の最上段にahamoを置いたのは、これが理由です。
もうひとつ大事な中身の話。月1,650円払っても、使えるのはメッセージの送受信だけで、音声通話はできません(これは全キャリア共通)。「衛星電話」を想像していると裏切られるので注意してください。
iPhoneの衛星経由緊急SOS|私の現実解
では最安構成の人は衛星を諦めるのか。いいえ、もう1枚カードがあります。iPhoneの「衛星経由の緊急SOS」です。
iPhone 14以降なら、キャリア契約に関係なく、圏外でも緊急通報機関へのSOSメッセージを衛星経由で送れます。料金は端末のアクティベーションから2年間無料。2年後の有料化は決まっていますが、具体的な料金はまだ発表されていません(2026年7月時点)。
ここ、キャリアの「当面無料」との違いに気づいてほしいところです。Appleは「2年」と期限を切って明示している。キャリアは「当面」という、いつ終わるか分からない無料。どちらが誠実な設計かは、好みが分かれるにせよ、予算計画が立てられるのは期限が明確なほうですよね。
私の現実解はこうです。回線は最安構成のまま、衛星はiPhoneの緊急SOSでしのぐ。月1,650円の衛星オプションに入るくらいなら、その分をahamoへの乗り換え(衛星無料が付いてくる)と比較検討したほうが合理的だと考えています。
衛星の2つの限界|だから地上の電波は今も有効
衛星があれば複数キャリアは不要か。そうはならないんです。限界が2つあります。
- メッセージしか送れない:音声通話は不可。地図の読み込みも、天気の確認も、家族とのビデオ通話もできない
- 空が見えないと使えない:衛星との直線が必要。樹林帯や深い谷筋では通じない。日本の登山道の大半は樹林帯です
あの日の羅臼岳の巨岩帯は、幸い空が大きく開けた場所でした。もし当時iPhoneの緊急SOSがあれば、伝言ゲームは要らなかったはず。でも同じ状況が樹林帯の中で起きていたら? 衛星は沈黙し、頼れるのは地上の電波と人の足だけです。
だから結論は変わりません。衛星は多層防御の第4層であって、第1層(複数キャリア)の代わりではない。なお楽天モバイルが2026年第4四半期(10〜12月)に独自の衛星サービス(将来はビデオ通話まで視野)を予定しているので、そこで勢力図が変わる可能性はあります。動きがあればこの記事を更新します。
電波の使い道は救助要請だけじゃない|家族への「みまもり」
ここまで「繋がるか」を語ってきましたが、繋がった電波で何をするのかも大事です。私が複数回線を持つ一番の理由は、実は救助要請ではなく「位置の共有」にあります。
| 機能 | 仕組み | 料金 |
|---|---|---|
| YAMAP「みまもり機能」 | 電波が繋がった時に現在地をサーバーへ送信。家族はメールやWebで確認できる | みまもり自体は無料(LINE通知はプレミアム限定) |
| ヤマレコ「いまココ」 | 5分ごとに位置を送信。家族がWebでリアルタイムに確認できる | 無料 |
両方に共通する重要な仕様があります。位置の送信には携帯電波が必要だということ。圏外の間は送れず、電波が復帰した瞬間にまとめて送信されます。
つまり、山の中で「どこか1社でも繋がる瞬間」が多いほど、家族に届く自分の足取りは細かくなる。万一動けなくなったとき、捜索側に渡る最後の位置情報が新しいほど、発見は早い。複数キャリアを持つことが、そのまま発見確率への投資になるわけです。
私自身、ヒヤリとした経験は羅臼岳だけではありません。百名山で2回、遭難しかけた話にも書きましたが、「自分は大丈夫」が一番危ない。位置共有は、その慢心への保険だと思っています。
こういう人にはこれ|登山スタイル別のおすすめ構成
| こんな人 | おすすめ構成 | 固定費の目安 |
|---|---|---|
| とにかく安く3キャリア持ちたい | 日本通信SIM+LINEMO+povo(私の構成) | 月2,380円 |
| 昼も快適に使いたい・衛星も欲しい | ahamo+LINEMO+povo | 月3,960円 |
| 低速でいいから定額で使い倒したい | mineoパケット放題+LINEMO+povo | 月2,700円前後 |
| データ無制限が最優先・回線は1本派 | 楽天モバイル(無制限3,278円) | 月3,278円 |
楽天モバイルについては、正直な但し書きを付けさせてください。無制限を3,278円で使える価格破壊は本物で、動画もテザリングも気にせず使いたい人には合理的な選択です。ただ、私は山での繋がりやすさを最優先して解約した人間です。楽天を選ぶなら「無制限のため」であって「山のため」ではない。この整理だけ、頭に入れておいてほしいと思います。
なお、日本通信SIMとpovoを一番に薦めているのは、単純に自分で使っていて一番合理的だと感じているからです。紹介して私に何か入るわけではありません。使っているものを、使っている理由ごと書く。このブログはその方針で続けます。
出発前の通信チェックリスト
回線を揃えても、準備を忘れると宝の持ち腐れになります。山行前にやっておきたい通信まわりの準備を、チェックリストにまとめました。
前日までにやること
- オフライン地図をダウンロード:圏外では地図の読み込みもできない。YAMAPなら地図の事前ダウンロードを必ず
- povoのトッピングを購入しておく:ここが盲点。トッピングの購入自体に電波が必要なので、圏外の登山口に着いてからでは買えない。前日の夜か、自宅を出る前に
- みまもり機能の通知先を設定:YAMAPみまもり・ヤマレコいまココの通知先に家族を登録。「アプリを入れただけ」では届かない
- iPhoneの衛星通信デモを一度試す:設定アプリの「緊急SOS」まわりから衛星接続のデモを体験できる(対応機種の場合)。空に向けてiPhoneをかざす操作は、ぶっつけ本番より一度練習しておくと落ち着いて使えます
- モバイルバッテリーを満充電:電波を探し続けるスマホは電池の減りが早い
当日・登山口でやること
- 登山口で電波状態を確認:どのキャリアが立っているかをチラ見しておくと、下山時の連絡計画が立てやすい
- 家族に入山連絡:ルートと下山予定時刻をひとこと。みまもり機能のリンクもここで共有
- 低電力モードに切り替え:圏外区間が長い山では電池の節約が効く。位置送信は生きたまま消費だけ抑えられます
特にpovoのトッピング前日購入は忘れがちなので要注意。0円運用の弱点は、使う直前にひと手間いることです。その手間を前日に済ませる習慣だけ、セットにしてください。
最後の砦は「他人の電波」|YAMAPこんにちは通信
最後に、多層防御の第3層「他人の電波」の話で締めます。
YAMAPには「こんにちは通信」という機能があります。すれ違った登山者同士のスマホが、Bluetoothでお互いの位置情報を自動的に交換し合う仕組み。自分が圏外のままでも、すれ違った誰かが電波の届く場所に出たとき、その人のスマホ経由で自分の位置が家族に届くんです。
気づいた方もいるかもしれません。これ、羅臼岳の伝言ゲームと同じ構造なんですよ。あの日は人の声で山頂まで繋いだ。こんにちは通信は、それを電波で自動化したもの。複数キャリアが「自分の電波」の冗長化なら、こんにちは通信は「他人の電波」の冗長化です。
思想はひとつ。1本の線に命を預けない。線は何本あってもいい。あの巨岩帯で圏外の画面を見つめた経験から、私はそう考えるようになりました。
よくある質問
Q. 登山で一番電波が繋がりやすいキャリアはどこですか?
A. 傾向としてはドコモ系が無難ですが、近年は差が縮まっており、ソフトバンクの改善も体感しています。山では数メートル単位で繋がるキャリアが変わるため、「最強の1社」を探すより複数キャリアを持つほうが確実です。
Q. 山でスマホが圏外のとき、電波を拾うコツはありますか?
A. 山頂側・稜線側など、高くて開けた場所に移動するのが基本です。私が羅臼岳で救助要請に関わった際も、電波は山頂側だけ通じました。機内モードのオン・オフで電波を再検索させるのも有効です。
Q. povo2.0の0円維持で注意することは?
A. 180日以内に1回はトッピング購入等が必要です(長期間利用がないと利用停止・契約解除の対象になります)。私は登山の日にデータ使い放題24時間330円を購入するので、自然にクリアできています。
Q. iPhoneの衛星経由の緊急SOSは無料で使えますか?
A. 対象機種(iPhone 14以降)なら、端末のアクティベーションから2年間は無料です。2年後の有料化は決定していますが、料金は未発表です(2026年7月時点)。送れるのはメッセージのみで、空が見える場所でしか使えません。
Q. スマホ1台で複数の回線を持てますか?
A. 持てます。最近のスマホはeSIM対応が標準で、物理SIMとeSIMの組み合わせ(デュアルSIM)で2回線以上を1台に入れられます。私はiPhone1台に日本通信SIM・LINEMO・povoの3回線を入れて運用しています。
まとめ|電波は「装備」。冗長化して山に入る
私が複数回線を運用している理由
- 山でどこか1社でも繋がれば、位置を家族に送れて発見確率が上がるから
- メイン1本+維持費ほぼ0のサブで、月2,380円あれば3キャリア持てるから
- それでも圏外はある。場所を変える・他人の電波・衛星と、層で備えるため
最後に要点を並べます。
- 山の電波は場所で勝者が変わる。「最強キャリア探し」より複数持ちが正解
- 方程式は「メイン1本+維持費ほぼ0のサブ」。povoの基本料0円が心臓部
- メインのドコモ系は「速度への不満」で登る階段。最上段のahamoは衛星無料の一石二鳥
- 衛星の「当面無料」は高いプラン客への特典。安い構成の人はiPhone緊急SOSが現実解
- 衛星はメッセージのみ・空頼み。地上電波の冗長化は今も有効
- 浮いたお金はココヘリや山岳保険へ。電波と捜索、両方あって多層防御
羅臼岳のあの方が無事だったのは、たまたま山頂側に人がいて、たまたまその場所に電波があったから。幸運に頼った救助でした。次に同じ場面に立つとき、幸運の代わりに準備を持っていたい。この記事が、あなたの準備の一部になれば嬉しいです。
では、またどこかのお山で👋
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