百名山100座、全部登った。
楽しかった。最高だった。でも正直に言うと、「これ、死ぬかも」って思った瞬間が2回ある。
1回目は北アルプスの鷲羽岳・水晶岳。両足が攣って、登ることも降りることもできなくなった。頭の中で「ビバーク」の2文字がちらついた。
2回目は北海道の羊蹄山。稜線で爆風に煽られて、座り込むしかなかった。
どっちも、無事に帰ってこられたから今こうして書いてる。でも紙一重だった。
今回は「山のうら話」として、この2つの体験を正直に書いておこうと思う。これから山を始める人にも、百名山を目指してる人にも、何か伝わるものがあればいいなと。
この記事でわかること
- 鷲羽岳・水晶岳で両足が攣って行動不能になった体験談
- 羊蹄山の稜線で台風接近中の爆風に遭った体験談
- 「体の限界」と「天候の暴力」— 2種類の遭難リスク
- 実体験から学んだ、山で生き残るための教訓
- 最低限持っておくべき装備の話
第1話:鷲羽岳・水晶岳 — 両足が攣って動けなくなった日
2021年7月|北アルプス 2泊3日
ずっと行きたかった鷲羽岳・水晶岳。北アルプスの最奥、簡単にはたどり着けない山。
新穂高から入って、双六小屋→三俣山荘→鷲羽岳→水晶岳という2泊3日の計画。距離45km、累積標高3500m超。コース定数91の「きつい」ルート。
百名山を目指し始めてまだ序盤。経験も浅く、正直なところ自分の体力の限界がどこにあるのか、まだよくわかっていなかった。
ワクワクしかなかった。…はずだった。
異変は1日目から始まっていた
朝4時、新穂高の駐車場に着いたら満車。鍋平園地の駐車場まで戻ることになって、いきなり30分のロス。
この日は新穂高から双六小屋までの約14km。小池新道をひたすら登る。

天気は最高。雲ひとつない青空。でも、それが裏目に出た。
暑い。とにかく暑い。
しかも前の週にサクッと別の山を登っていて、疲労が完全には抜けきってなかった。2泊3日分の荷物を背負った状態で、この暑さ。
鏡平山荘でかき氷を食べて少し回復したけど、弓折乗越を越えたあたりから足に違和感が出始めた。
「しかし 足がヤバい…」
写真のキャプションにそう書いてる。この時点でもう、かなりきつかった。
鷲羽岳・水晶岳の山頂へ

2日目、三俣山荘に荷物をデポして、鷲羽岳を目指す。身軽になった分、足取りは少し楽になった。

鷲羽岳の山頂からの眺めは圧巻。穂高連峰、立山連峰、槍ヶ岳…。ここまで来た甲斐があったと心底思えた。
そしてワリモ岳を越えて、いよいよ水晶岳へ。

ほんとに来れた。感無量。北アルプスの最奥にそびえる水晶岳の山頂に立った瞬間、すべての苦労が報われた気がした。
両足が攣った。動けない。
ただ、問題は1日目。
何とか双六小屋にたどり着いた時点で、両足が完全に攣っていた。
登ることも、降りることもできない状態。
頭の中でぐるぐる考えた。
「ツェルトはある。ダウンもある。最悪、ここでビバークするか…」
標高2500m超の稜線で、テントも張らずにツェルトでビバーク。冗談みたいだけど、本気で選択肢として考えていた。
仲間の声に救われた
結局、一緒に行っていた仲間の声に助けられた。
「大丈夫、ゆっくりでいいから」「休み休み行こう」
そんな言葉に背中を押されて、騙し騙し歩いた。一歩ずつ、本当に一歩ずつ。
小屋に着いた時は心底ホッとした。「果たして下山できるのか」と本気で心配になったけど、翌日以降は少しずつ回復して、最終的には無事に新穂高まで戻れた。

三俣山荘での最後の夜。夕方の雨が嘘のような満天の星空が広がっていた。流れ星も見えた。こんな景色を見られたのは、あの苦しい1日目を乗り越えたからこそ。
「最悪の事態に備えて、最大の努力を」
YAMAPにそう書いた。大げさじゃなく、この登山で一番学んだこと。

この経験から学んだこと
- 前週の疲労は想像以上に残る。 「サクッと登った」つもりでも、体は正直
- 暑さ × 荷物の重さ = 足が攣る方程式。 水分・塩分の補給をもっと真剣にやるべきだった
- ツェルトは命綱。 使わなかったけど、持っていたから「最悪ビバークできる」と思えた。あれがなかったらパニックになってたかもしれない
- ソロだったら詰んでた。 仲間がいたから動けた。あの状況でひとりだったら…考えたくない
- 百名山序盤の経験不足。 自分の体力の限界がわからないまま、コース定数91のルートに突っ込んだ。経験を積んだ今なら、前週の疲労が残っている時点で計画を見直す
第2話:羊蹄山 — 稜線で吹き飛ばされそうになった日
2022年9月|北海道 日帰り
北海道遠征の2日目。蝦夷富士とも呼ばれる羊蹄山に、倶知安ひらふコースから登った。
標高差1700m、コース定数39の「きつい」山。しかもこの日は台風が接近中で、午後から天気が崩れる予報。わかっていたから、朝5時半に出発した。

駐車場はガラガラ。台風接近の予報だから、みんな来てない。
…今思えば、これが最初のサインだった。
終始急登。でもここまでは想定内
羊蹄山の登山道は、ひたすら急登。とにかく登る、登る、登る。石の種類がコロコロ変わるのがちょっと面白いけど、足にはくる。

途中、秋の紅葉が綺麗で気分は悪くなかった。9月の北海道、山の上はもう秋。
避難小屋での忠告
山頂付近の避難小屋に到着。ここが綺麗で、ストーブまで焚いてくれていた。バッジも買えるし、今年から発売の手ぬぐいも買ったりして、のんびりしていた。
そこで小屋の方にこう言われた。
「風が強いから、山頂はやめた方がいいかも」
雨とガスが出始めていた。風も強くなってきていた。
でも、ここまで来て引き返すのか? バッジは買ったけど、山頂は踏みたい。
…突っ込んだ。
稜線で爆風。座り込むしかない。

山頂には着いた。ガスガスで何も見えない。風も強い。でもまだ「まぁこんなもんか」くらいだった。
問題はその後。
お鉢を回り始めた稜線で、爆風が来た。
立っていられない。体が持っていかれそうになる。道幅は狭い。両側が切れ落ちている。
飛ばされたら、終わり。
座り込んだ。風が少し弱まるのを待つしかない。雨で全身ビショビショ。風が吹くたびに体温が奪われる。
小屋の方が「やめた方がいい」と言っていた意味を、このとき初めて理解した。
ただ、このとき救いだったのは一緒にいた山友が暴風の経験者だったこと。お互い冷静に「何を持っているか」を確認し合った。バーナー、食料、ツェルト…。最悪のケースではどうするか。2人で具体的に検討を始めた。
パニックにならずに済んだのは、この山友のおかげだと思う。経験者が横にいるだけで、判断の質がまるで違う。
慎重な下山、そして帰りの飛行機も…
何とか稜線を抜けて、下山開始。
すると、少し山を下りただけで嘘みたいに風が止んだ。山体が風を遮ってくれている。さっきまで吹き飛ばされそうだったのに、数十メートル標高を下げただけでこの静けさ。
風向きひとつで、山はまったく別の顔を見せる。稜線と山腹でこうも違うのかと、身をもって思い知った。
雨で登山道はドロドロだったけど、慎重に足を運んで無事に登山口まで戻れた。
登山口に着いた時は、心底ホッとした。あの稜線の爆風は本当にやばかった。

そしてオチがもうひとつ。帰りの飛行機で台風の影響が出ていて、空港は大混雑。欠航も出ていた。山の上だけじゃなく、下界でも台風の影響をしっかり食らった💦
この経験から学んだこと
- 台風接近中に山に入るリスク。 「午後から崩れる」は「山頂付近はもっと早く崩れる」と読み替えるべき
- 地元の人・小屋の人の忠告は絶対。 「せっかく来たし」で判断を曲げたのが最大のミス
- 稜線の風は平地の比じゃない。 天気予報の風速に山の地形効果が加わると、想像を超える
- 経験者と一緒にいる価値。 暴風経験のある山友がいたから、冷静に装備確認・最悪のケース検討ができた。ソロだったら判断を誤っていたかもしれない
- 雨具は命を守る装備。 「濡れない」じゃなくて「低体温症を防ぐ」ための装備
2つの経験を振り返って
鷲羽岳・水晶岳は「自分の体」が限界を迎えた。内側のリスク。
羊蹄山は「自然の力」に圧倒された。外側のリスク。
どっちも、山では普通に起こること。特別なことじゃない。
でも、「普通に起こること」で人は死ぬ。
生き残れた理由を考えてみた
| 鷲羽岳・水晶岳 | 羊蹄山 | |
|---|---|---|
| 助かった要因 | 仲間がいた | 暴風経験のある山友と装備確認・最悪ケースの検討ができた |
| 持っていてよかった装備 | ツェルト・ダウン | レインウェア上下・バーナー・食料 |
| 足りなかったもの | 体力管理・経験値 | 天候判断・撤退する勇気 |
| 教訓 | 過信しない | 忠告を聞く。経験者と登る |
結局のところ、装備があったから生きてる。
ツェルトは使わなかったけど、「最悪ビバークできる」という選択肢があるだけで、パニックにならずに済んだ。雨具がなかったら、羊蹄山の稜線で低体温症になっていたかもしれない。
登山保険の話
この2つの経験のあと、登山保険には入るようにした。
年間数千円で、遭難時の捜索費用もカバーされるものがある。ヘリコプターの捜索費用は1時間で数十万円かかることもあるから、万が一のことを考えると安い買い物だと思う。
「自分は大丈夫」— そう思ってた。鷲羽岳・水晶岳の前までは。
山は最高。でも舐めたら終わり。
百名山100座を登って、改めて思う。
山は楽しい。景色は最高。達成感はたまらない。
でも、山は人間の都合なんか知らない。体力が尽きても、天気が荒れても、山はそこにあるだけ。助けてくれるのは、自分の判断と、持ってきた装備と、一緒にいる仲間だけ。
「最悪の事態に備えて、最大の努力を」
鷲羽岳・水晶岳で痛感したこの言葉を、今でも山に行くたびに思い出す。
では、またどこかのお山で👋




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